<事案>
ある日、H社に弁護士名義の内容証明郵便が届いた。それは以前H社を円満退職したはずの元社員Nが、在職中の未払残業代を請求するというもので、分厚い労働時間の集計表とともに「未払残業代350万円を1週間以内に指定口座に振り込まない場合、法的措置をとらせていただきます」とあった。
<解決>
このH社の就業規則・賃金規程は日本経営労務が作成しており、毎月支払われている手当の中に定額の残業代が含まれているという規定がありました。しかし、N側はこの点を考慮せず計算をしていました。また、弁護士事務所で計算したとする勤務時間表にはミスが多く、こちらで計算した未払い額は150万円でした。
N側と交渉を続けるうち、Nの在職中の問題(使い込み)も露呈し、結果、こちらの主張する150万円で和解となりました。
相手の請求額 | 解決額 | 差額 |
---|---|---|
350万円 | 150万円 | 200万円 |
<ポイント>
在職中の残業代が未払いである場合、支払いに応じる義務が会社にはあります。しかし、それは実際に会社の指揮命令下で労務に服した時間によって客観的に算定されるものです。相手の言い値に合わせる必要はありません。残業していたという思い込みや、会社にいても指揮命令下になく仕事をしているといえない時間もあるからです。タイムカードや勤務表、パソコンの使用ログ等を精査することで正確な数値を出すべきです。
H社ではタイムカードで労働時間を適正に管理していたほか、賃金規程で毎月、残業代に相当する定額の手当を支払うことを明記するなど、対策を打っていたことから、過大な残業代の請求を防ぐことができました。
<事案>
T社に「在職中の従業員Nから未払残業代の請求がある」と労働組合から団体交渉要求が届いた。請求の内容は、過去2年間の未払いが139万円にのぼるというもの。会社の計算では未払い額は107万円であり、解決金13万円と併せて120万円を振り込むことを掲示したが交渉は決裂。
<解決>
その後の交渉で、確かに未払いは認識しており、提示額との差も20万程度だったため、訴訟になった場合の弁護士費用などを考えると和解した方が得策と判断し、解決金155万円を労働組合名義に振込み協定書を締結しました。
ユニオン側の請求 | 解決額 | 差額 |
---|---|---|
155万円 | 155万円 | 0円 |
<ポイント>
今回の残業代請求は、労働者側がタイムカードをもとに残業時間を計算てしており、それを否定する立証が極めて難しいものでした。頑として支払いを拒否し、裁判となった場合、判決で付加金(最大で未払残業代と同額)が課せられることもあります。また争いが長引く場合、未払い分に発生する利息、裁判費用や弁護士費用も考えなくてはなりません。そこで早期解決が妥当とT社も判断しました。
T社では今後同様の問題が発生しないよう、定額残業代を導入し、個別に賃金変更同意書を取り付け、賃金規程を労働基準監督署へ届出しました。
Q1. | 「残業代は出さないがボーナスで還元する」と社員には話しています。 実際たくさんボーナスが出てみんな喜んでいます。何か問題ですか? |
|
A1. | 賃金の支払い方には一定のルールがあり、その月で発生したものはその月に全額支払わなければなりません(全額払いの原則)。 仮に残業代の代わりとしてボーナスを支払ったと仰っても、法的には上記の原則により支払ったことになりません。 ボーナスで残業代を支給したにもかかわらず、未払い残業代のリスクを抱えることになります。 |
Q2. | 律儀に残業代を払っていたらうちの会社はもちませんよ。 社員もわかってるはず。 |
|
A2. | 社員に残業をさせている以上、残業代は発生します。 支払わないものは、会社の債務として残り続けることになります(時効は2年)。 つまり今支払わなくても、社員全員、2年分、数百万円をまとめて支払わされるリスクを抱え続けることになるのです。 今はわかっててくれていても、解雇されたり、ケンカ別れした元社員は会社のことを考えてくれるでしょうか? |
Q3. | そうはいっても、無い袖は振れないし… | |
A3. | 無理だから払わない!…では先ほど述べたリスクを抱え続けます。 だからと言って、何もせずに手をこまねいているわけにはいきませんよね。 賃金体系を工夫したり所定労働時間を工夫したり、取りうる手段は色々あります。 ぜひご相談頂きたいと思います。 |
Q4. | 定額残業代が有効だと聞いたことがあります。 実際のところどうなのでしょう? |
|
A4. | 定額残業代は、日常的に残業が行われる場合、毎月固定の額を残業代として前払いする手当です。 毎月の給与を実態に近い額で提示できる他、残業代が未払いになるリスクを予防するのに有効な手段といえます。 しかし、最近では残業代を不当に低く抑制するような定額残業代に対しては裁判所が厳しい判決を下すケースも出てきました。v 法令を踏まえ、要件を満たした上で有効になる制度と言えます。v 導入に際しては専門家とご相談下さい。 |
Q5. | 我が社は真面目で熱心な社員ばかりなのですが、熱心なあまり夜遅くまで「帰らない病」にかかったかのようです。 | |
A5. | 熱心な社員さんはきっと遅くまで頑張って売上に貢献してくれているのでしょう。しかし、残業は「割高な賃金」というコストで会社の利益を圧迫する事実も社員に周知してもらわねばなりません。 残業を許可制にし、会社の認めない残業を許さない制度にするほか、ノー残業デーなど社員のライフスタイルを支援する企業文化を育てることも有用です。 長時間残業の対策についてはこちらもご覧ください。 |
Q6. | 課長以上は管理職なので残業代は払わなくていい と認識しています。 間違っていませんよね? |
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A6. | 確かに労働基準法ではいわゆる「管理監督者」には労働時間の規則が適用されないとされています。 しかし、この管理監督者に当てはまるのは「経営者と一体の立場にある」といえるような権限や裁量をもっている人に限られます。 実務上そのような管理監督者にあたる人はほとんどいません。 一時期話題になった名ばかり管理職問題とは、管理監督者といえない人に会社が残業代を支払わず、後日高額の未払残業代を支払う事態になったものです。 貴社でも現に未払残業代が発生していると思われます。早急に見直してください。 |
Q7. | 退職した社員から「在職中の未払残業代●●万円があり、支払わない場合は法的措置をとる」との請求書が届きました。 どうしたらよいのでしょう? |
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A7. | 確かに労働基準法ではいわゆる「管理監督者」には労働時間の規則が適用されないとされています。 しかし、この管理監督者に当てはまるのは「経営者と一体の立場にある」といえるような権限や裁量をもっている人に限られます。 実務上そのような管理監督者にあたる人はほとんどいません。 一時期話題になった名ばかり管理職問題とは、管理監督者といえない人に会社が残業代を支払わず、後日高額の未払残業代を支払う事態になったものです。 貴社でも現に未払残業代が発生していると思われます近年、未払残業代の請求書が会社に突然届くケースが多発しています。 「過去の残業代は会社に請求できる」という認識が広まっているためです。 実際に未払いの残業代がある場合は、支払う必要があります。 ただし、その前に相手の請求額が正しいかを精査するべきです。 過去のタイムカードや出勤簿で時間を集計し、就業規則等に基づいて割増賃金を計算した上で、相手方やその弁護士と交渉することになります。 このような計算や交渉には法律や労務の知識が必要です。 請求する側に労働者派の弁護士がついているように、会社側でも経営者の側に立つ“経営派“の社労士や弁護士に相談することをお勧めします。 |
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