<事案>
J工業の社員Aは、恒常的に長時間労働をしており、休日に出社命令なしに出社し、毛布を持参し職場で昼寝している様子を他の従業員も数回見かけていた。そのAがある日突然自殺。A側の弁護士が「これは過労自殺だ」と労災認定を請求し、裁判所からタイムカードの保全命令が出された。
<解決>
自殺が労災と認められるには、その自殺と業務との因果関係が立証される必要があります。調査したところ、Aはプライベートでも問題を抱えており、長時間労働と因果関係のある自殺と認められず、労災認定はされずに終了しました。
<ポイント>
このケースでは過労自殺とは認定されませんでしたが、一般的に長時間労働が自殺を引き起こす精神障害につながることは国も認めています。長時間労働が恒常化している職場では、従業員が身体・精神の健康を損なって死亡したとき、「長時間労働が原因の過労死(過労自殺)では?」と疑われるリスクが高くなります。
会社には従業員への安全配慮義務があり、過労死(過労自殺)と認定された場合、数千万から数億円の賠償責任を負うことになります。労働環境の整備や従業員の健康への配慮、長時間労働の解消に取り組む他、損害保険会社の提供する使用者賠償責任保険への加入が必須といえます。
<事案>
K社では職場の長時間残業が恒常化しており、体調不良を訴える社員が多く、休職する人や離職者も出始めた。このままでは過労死が出かねない…。具体的な改善方法はないかと経営者から相談を受けました。
<解決>
経営陣と日本経営労務で打ち合わせを重ねた結果、社員の役割分担が不明確で非効率となっていることを突き止めました。そこで全ての業務内容をすべて洗い出し、部署単位およびチーム単位での役割と責任を明確にしました。一方、ノー残業デーを導入し、書面で周知活動を行った結果、浸透し早く帰れる日ができました。また、リフレッシュ休暇制度を作り、計画的に休暇を組むことで従業員同士が協力するようになりました。
<ポイント>
長時間労働が止められない原因に「人が足りない」を挙げる職場が多いです。しかし、長時間労働が続くと社員のモチベーションが下がり、また十分に休息がとれないことで、生産性の低下、体調を崩しての休職や退職により人手不足を悪化させるという悪循環に陥ります。
この会社では長時間労働が「あたり前」化することで、現場において、業務を効率化しよう、定時に帰れるように計画的に仕事しようという意識が弱まっていました。こういった場合、トップダウンで経営者が脱・長時間労働を進めることが有効です。
Q1. | どのような場合に「過労死」になりますか? またどんな場合が「過労自殺」とされるのでしょう? |
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A1. | 厚生労働省の定義によれば、「過労死」「過度な労働負担」が原因となって高血圧などの基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や心不全などにより死に至ることとされます。 この「過度な労働負担」の代表的なものとして過剰な長時間労働が挙げられます。 また、「過労自殺」は「業務上生じた過度の心理的負荷」によって精神を病み、自殺に至ることです。この「過度の心理的負荷」にも過剰な長時間労働が挙げられています。この他にも、重すぎる責任や人間関係のストレスなどが原因とされることがあります。 |
Q2. | もし、過労死が起きた場合、会社にどのような責任が問われるのでしょう? | |
A2. | 会社は労働者に対し、業務上の疲労や心理的負荷を蓄積させ、健康を損ねるようなことがないよう安全配慮義務を負っています。 過労死は会社がこの義務が果たされなかった結果であるとして、使用者責任が問われ、民事上の損害賠償責任が課せられることになります。 人の死に対する損害賠償です。数千万~数億円となることも珍しくありません。 また過労死を出した会社として社会的信頼の失墜は甚大なものになります。 過労死は絶対に防がなければなりません。 |
Q3. | 長時間労働が過労死の原因となることはわかりました。 具体的に1カ月何時間以上働かせるとダメという基準はありますか? |
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A3. | 厚生労働省が労災となる過労死・過労自殺の認定基準を出しています。 それによると月に80時間以上の時間外労働が続くようであれば過労死との関連性が強いと評価されます。 また、時間外労働を可能にする36協定でも1カ月の時間外労働の限度は45時間とされています。 この45時間を超えて時間外労働が長引くほど過労死との関連性が強まるとされ、その他の仕事上のストレスと併せて過労死の原因とされるリスクが高まります。 |
Q4. | もともと持病のある人やメンタルの弱い人もいるでしょう。 仮に職場で亡くなったとしても、会社に原因のある過労死とは限らないのではないですか? |
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A4. | 確かに身体・精神の持病のある人については、持病によるのか、業務上の負荷による過労死かが精査されることになります。 一方、会社は安全配慮義務から、社員の健康状態を把握し、持病等がある人には配慮した業務・人員の配置が求められます。 持病の確認を怠った、持病があることを知りながら負担の大きい仕事に就けたとなった場合、会社の責任が問われることになります。 必ず従業員に健康診断を受けさせ、診断結果によっては医師との面談や就ける仕事への配慮が必要となります。 |
Q5. | 具体的に過労死を防ぐにはどうすればいいのでしょう? | |
A5. | 会社には安全配慮義務があり、労働時間数の把握、長時間労働の防止は必ずやらなればならないことです。 また、ストレスやメンタルの疲労を把握・軽減するために、上司が従業員と定期的に面談する、健康診断の受診の徹底、医師や専門家による定期的なストレスチェックといった従業員の健康管理。 ストレスや長時間労働が構造的な問題の場合は職場でコミュニケーションをとり、作業の効率化、人員・業務配分の適正化を図ることが肝要です。 具体的方策はケース・バイ・ケースです。会社・従業員・専門家を交えて健康管理・職場改善の計画を立てることをお勧めします。 |
Q6. | 使用者賠償保険というのは必要なのでしょうか? 国の労災保険もあると思うのですが。 |
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A6. | 確かに国の労災保険にも過労死に対し遺族補償給付があります。 しかし、過労死裁判で会社に課される損害賠償は数千万~数億円です。 労災保険の補償給付だけではとてもまかないきれません。 さらに裁判となれば訴訟費用や弁護士費用、労災保険では補償されない慰謝料の支払いなど費用は膨大なものとなります。 また、過労死に限らず、職場での不慮の事故で、会社(使用者)の責任を問われるケースは数多く存在します。賠償費用で経営危機に陥る企業も少なくありません。しっかりとした補償の裏付けがあることは、会社にとっても従業員にとっても大きな安心となるはずです。 |
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