<事案>
A社に労働局からあっせんの通知書が届いた。内容は先日一身上の都合で退職した元社員Hが、「退職までの約5年間(58ヶ月)、上司から業務の範囲を超えた人格攻撃を受け、精神的苦痛を受けた」とし、「パワハラの慰謝料1ヶ月あたり10万円×58ヶ月=580万円支払え」との請求を起こしているというものだった。
<解決>
あっせんの場では、日本経営労務が、会社の代理人としてあっせん代理し、パワハラにあたる言動はなく、業務の一環の注意や叱責であるという会社の主張を通しました。あっせんは不調に終わり、その場での解決となりませんでしたが、Hは訴訟に進んでも勝ち目はないことを悟った様で、その後、会社に請求することはありませんでした。
相手の請求額 | 解決額 | 差額 |
---|---|---|
580万円 | 0円 | 580万円 |
<ポイント>
業務上の通常の注意や叱責であっても、パワハラだと主張して賠償金や慰謝料を請求する社員が存在します。また、解雇や残業代を争う場合に会社側のパワハラを「盛る」ケースも多々あります。しかし、あっせんや裁判では、あくまで事実関係と社会通念でパワハラかを判断します。実際の発言が業務上の範疇であること、社員の主張が誇張であることを堂々と主張すべきです。
しかし、実際に「役立たず」や「給料泥棒」等の度を越えた人格攻撃や殴る蹴るの暴力行為を繰り返し行っていた場合、加害者に損害賠償責任が発生し、それを放置した会社にも同様の使用者責任が発生します。
「パワハラ禁止」を、ハラスメント防止規程により職場に周知させ、日頃から指導や教育を行うこと、相談窓口を設け早期発見・解決に努めること等が、パワハラ被害を防止するだけでなく、不当なパワハラ賠償請求をされたときの重要な反証となります。
賠償請求を受けた時だけではなく、日頃から必要な措置についても、日本経営労務にご相談下さい。
<事案>
T社のある店舗の店長Wは、大学生の女性アルバイトに対して、日頃から執拗にメールを送りつけたり、行き過ぎのボディータッチを行っていると、そのアルバイトから会社に申告があった。どのような措置をとるべきかT社から相談を受けました。
<解決>
申告内容を丁寧に聞き取り、周囲にも事情を聴収、セクハラを行っているW本人に対して面談し事実関係を確認し、これ以上の接触を禁止するなど厳重に注意した上で、Wを別の店舗に配置転換させることで解決しました。
<ポイント>
男女雇用機会均等法では、会社にセクハラ対策の雇用管理上の措置を求めており、事実関係の確認、被害者へのケア、再発防止の措置などが会社に義務づけられています。これらの義務を果たさない場合、会社名を公表される等のペナルティを受けます。
会社の人事権は強いものがあります。加害者を配置転換することは、被害者から引き離すことでセクハラの再発を防止し被害者に安心をもたらすとももに、加害者への懲戒としても有効な手段といえます。
Q1. | 私の会社に限ってハラスメント問題なんてありえません。 ちょっと口の悪い社員や猥談好きの社員がいたり、上司と部下のイザコザがあることぐらい普通の日常ではないでしょうか? |
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A1. | 「された側がどう感じるか」が問題になります。 「バカ」や「役立たず」といった発言は、言われた側は傷つくのに言った側は自覚がなく、知らず知らずエスカレートしていきます。 良い職場・大事な社員と思うからこそ、「何がハラスメントか」「やってはいけないことは何か」の教育・周知を徹底する必要があります。 |
Q2. | 中学校じゃないんだから、イジメだセクハラだといって上の者がでしゃばることもないんじゃないの? お互い大人なんだし、自分たちで解決してほしいんだけど… |
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A2. | 職場でハラスメントが行われた場合、加害者社員を使用する会社には使用者責任が発生します。 また会社には従業員に対する安全配慮義務があり、加害者を放置した会社は損害賠償責任を負うことになります。 職場でのいじめを苦に社員が自殺したケースでは数千万円の賠償金が会社に課せられました。 見て見ぬふりや事なかれ主義でハラスメントを放置・傍観することは許されないと考えるべきです。 |
Q3. | 何がハラスメントで、何がハラスメントでないか線引きが難しいのではないですか? 何がダメなのかわからなくては、社員も萎縮してしまいます。 |
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A3. | 主観的な問題だからこそ、線引きが難しい面もあります。 しかし、厚労省がまとめた「パワハラの6つの行為類型」などもあります。 これらに準拠して、ハラスメント防止規程の作成など社内でルール化することが望ましいです。 また、「相手が嫌がることをしてはいけない」というマインドを社員で共有することが重要です。職場での研修・ディスカッションで「何がNG行為か」意見を出し合うことも有意義でしょう。 |
Q4. | 気をつけてはいたのですが、どうもある上司が部下の女性にセクハラを行っているようです。 会社としてどうすればよいでしょう。 |
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A4. | セクハラ・パワハラは早期発見・早期解決が重要です。 まず、被害者から相談を受け、真摯に話を聞いてください。 その上で、加害者・周囲の職員たちにも事実関係の事情聴収を行います。 この相談・事情聴収には同じ女性を充てる、加害者と被害者を同席させないといったデリケートさが必要です。 事実関係を確認したうえで、この上司に反省や更生を促し、場合によっては懲戒処分となります。 会社にはセクハラの防止・解決の措置が義務付けられており、相談窓口の設置、事情聴収の方法、懲罰のルールは普段から定めておく必要があります。 |
Q5. | 仕事はできるのですが、部下に対して厳しい部長がいます。 意に沿わない・成績の悪い部下は容赦なく罵り、時には手も出ます。 これまで何人もの社員が彼の下で辞めていきました。 しかし、部としての成績は常に上位にいるので、会社としてもこの部長の「オレ流」に強く言えずにいます。 |
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A5. | 会社がパワハラを放置した場合、会社は使用者責任を問われることになります。 暴力を受けた社員が訴えた場合、会社も賠償責任を負うことになるのです。 結果もでてるし、彼には彼のやり方が…ではなく、パワハラはNG行為としてやめさせなくてはなりません。 改まらないようであれば配置転換や懲戒処分等も必要となります。 |
Q6. | 「いやらしい目で見られた!セクハラだ」とか、「ちょっとしたミスでひどく叱られたパワハラだ」とすぐ言う社員がいますが、言ってる側にも問題があるのではないですか? | |
A6. | 過敏・過剰にハラスメントを受けたと言う人も確かにいます。 もし裁判やあっせんになっても社会通念上明らかにおかしな主張であれば却下されるでしょう。しかし、日頃からハラスメント行為が放置されている職場であれば、過剰な主張であっても認められかねません。 普段よりハラスメント問題を職場に周知させ、どのような行為・言動がパワハラ・セクハラとなるか、職場で意識を共有させる必要があります。 |
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